01. その爪は誰のもの?

お茶が喉や心を「うるおす」ように、

普段の生活の場面でも

心を「うるおす」場面が

生活のあちこちにありますよね。

熊本在住のエディター福永さんに

「心までも うるおす 身近な出来事」

をテーマに今回から

エッセイを書いていただくことになりました。

どうぞお楽しみください!

 

 

エディター・福永あずさが、「うるおす生活。」について綴るエッセイ。

01
その爪は誰のもの?

自分で言うのもなんだけど、結構、ずぼらな方だと思う。よく言えば、大らか。わるく言えば、O型(O型の紳士淑女の皆さんごめんなさい)。

忙しさにかまけて、ヘアサロンには半年に一度くらいにしか行かないし、今も化粧水はドラッグストアで売っているオールインワンを使っている。

 

持ち前の肌の強さが幸いして、小さな頃から肌荒れはほとんどない。離島に行くたびにぽちぽち増えていくそばかすも、まぁ見ようによっちゃモデルさんみたいでよかねと、思うようになっている。

眉毛は長らくほっといてたら、世間がナチュラル志向になってきて、「そのまんま」で、結果オーライ。もちろん、まつ毛はすっぴんさん。自然に、自然に、生きてきた。

 

そんな私が唯一、毎月欠かさないことがひとつだけある。

ネイルだ。

月に1度、湖のほとりにあるネイルサロンを訪れている。淡いクリーム色の扉を開けると、そこはいつもほどよい湿度に保たれ、とろりといい香りが満ちて、ドライフラワーがいくつもぶらさがっている。

誰が歌っているかわからない洋楽が、iPhoneからじゃかじゃかとかかっているけど、あまり意識したことはない。

 

決して広くないサロンの真ん中に、リネンのエプロンをつけた「ももこさん」が座っている。

「ももこさん」は、いつもマスクで顔を覆っていて、かなりの至近距離で接しているのに、どんな表情をしているのかよくわからないところもいい。

自分の右手の爪はレッスンにくるネイリストの生徒さんのために空けていて、シュッと先っぽがとがっていたり、たいてい自然なまま。いい意味で、肩の力がてろんと抜けたところが、私にあっている。

 

およそ120分間。

指を、爪を、さわられている間、私たちは色々な話をする。「爪先から肯定を」をモットーとしているサロンでの時間は、音のないセッションのようで、家族にも友人にも言えなかったことが、「わっ」とあふれ出てとまらないこともあった。

 

すべての行程が終了すると、最後に「ももこさん」がクリームをつけてぐりりとハンドマッサージをしてくれるのだが、それがまた、1ヵ月がんばった両手へのごほうびのように思う。

 

必ず予約を入れて帰るのは、最低限の身だしなみといってしまえばそれまでだけど(ジェルネイルは伸びたらだらしなく見えてしまう)、なるべくなら絶やしたくない、ちいさなプライドだったりする。

 

 

名刺を渡す、手紙を書く、玉ねぎをむく、子どもをあやす。女の人の指は本当に働きもので、いつも誰かのためにせわしなく動き続けている。

今この瞬間も、家族が寝静まった真夜中のダイニングキッチンで、真夜中にカタカタとリズムを刻む、私の指先もまたしかり。

 

昔、いつまでたってもメイクが様にならない私に、

「大人になったら、メイクは人のためにするものです」

といった先輩がいた。

 

誰のものでもない私だけの爪、バンザイ。

 

 

 

福永あずさ(エディター・ライター)

1984年宮崎県生まれ。大学進学を機に熊本へ。 
タウン誌の編集部を経て2014年からフリーランスへ。 
熊本を中心に、編集・ライティング・コピー、(ときどき写真) の仕事に関わる。
趣味は一人旅で、今いちばん興味があるのはドラム。 カメラマンの夫と茶トラの猫(♂)と古いアパートに住む。